しめ縄についてのお話

しめ縄の定義というか、どんなものかは誰でもお分りかと思いますので置いておくとして、ここでは特に、横にしてつけたとき、片方が太くもう片方が細くなるタイプの(いわゆる大根じめ)しめ縄について考えたいと思います。

というのは、このタイプには神棚に取りつけるとき、どちらが太くてどっちが細いなんだ、という疑問が絶えずつきまとうからです。

一般には、神棚に向かって右が太く、左が細くなるようにと言いまして、私も誰かに尋ねられたときにはそうお答えします。
ところが、地方によって、職業によって、まるきり逆にしていることもあるのです。

ここで基本的なことをまとめます。まず大根じめでは、ない始め(つくり始め)の方が太く、ない終わりの方が細い、ということ。
それから、しめ縄の多くは左ないにないまして、ある方が調べたところによると、8割が左、2割が右だということです。
また、右を太く左を細くするつけ方を「入船」、右を細く左を細くするつけ方を「出船」と呼ぶことがあります。

「左ないになう」のは日本書紀にすでに記述があります。
天の石屋戸の伝承の中です。
お隠れになっていた天照大御神が出ていらっしゃるときに、再び入れないようしめ縄をはりました。
これが左ないだった、と書かれています。また、古神道では「天道の左旋」を模すので左ないにするといいます。

それから「入船」「出船」は職業によります。
客がたくさんきてほしい商売の方なら「入船」がよく、たくさん外に出て稼ぐサラリーマンでしたら「出船」がよいといいます。
また、「玄関の方を規準にこの『入船』『出船』を見る」という見方を聞いたこともあります。
玄関の方角に細い方が向いていれば「出船」、向いていなければ「入船」というわけです。

神棚から少し離れ、神社について見てみますと、日本全国各神社のしめ縄は、実にさまざまです。
大根じめのところもありますが、そうでないところも多数です(下の写真は当社のしめ縄ですが、やはり大根じめではありません)。
そして大根じめでも、左が太いところもあり、右が太いところもありと、ばらばらです。

向かって右が太い神社は、笠間稲荷神社、箱根神社、大国霊神社、真清田神社、椿大神社、吉田神社、香椎宮(神門)などなど。
左が太い神社は、出雲大社、熊野大社、大神神社、大山祇神社など。もちろんその他にもたくさんあります。

こうしてみると、どっちが正しいということは言えないようです。あえていうなら、どっちも正しいのかもしれません。

ただ、一般に神道では左右について、神様から見て左(向かって右)を上位とし、右(向かって左)を下位としますから、向かって右を太くするのはその意味では理にかなっているといえます(太い方が「ない始め」でモトなので)。
したがって、参拝者にご説明するときなどは、やはりこう申し上げる方が自然かもしれません。
前述の「入船」「出船」の考え方にしろ、上位である左側から船が入って来ているのが「入船」で、左側へと出て行くのが「出船」ですよね。
これも上位・下位を規準にした見方なのでしょう。

しかし、前述のように逆だからといってまちがいだとはいえません。とすれば、理由が必要ですよね。
なぜ右を、あるいは左を太い方にするのか意識してつけるべきで、そうでないなら単に物を知らないでまちがっているだけの話になりかねません。
向かって右に太い方を持ってくる理由としては、「ない始め(太い方)」を上位に、とすでに述べましたが、では全く逆、向かって左に「ない始め」を持ってくる理由はどうなんでしょうか。

これも前述のように「うちは出船にする」とはっきり意識されているなら、それもよいでしょう。
近くの神社で、また、この地方ではそうしているから、という理由ももっともです。
こうした理由は、決して否定されるべきではないでしょう。

神社におけるしめ縄の向きについての理由は、その向きと御祭神に何らかの関係がある、というのがヒントになりそうです。
全国の神社のしめ縄を調べたわけではないので類推に過ぎませんが、向かって左が太い神社は、御祭神が国津神系ではないかと思われます。
国津神に対して天津神という言い方もありまして、どの神が国津神でどの神が天津神かという問題は非常に難しいのですが、大まかにいって、もともとその土地にいらっしゃった神様が国津神、それに対し(基本的に)高天原にいらっしゃるのが天津神です。

上位を天、下位を地に対応させたとき、その土地の神である国津神が下位である地をモトにする(ので、大根じめのない始めを向かって左にする)とすれば、理にかなっているのではないでしょうか。
神棚のしめ縄について、そうした神社にならったといわれれば、あながちに否定することはできません。

ただ、神社と家庭の神棚はやはり違う、ということもあります。
神棚では基本的に伊勢の神宮のおふだを正面におまつりします。天照大神は天津神であります。